HAZOP 基礎知識
定常状態にある連続プロセスを対象とした実際のHAZOPスタディでは、あらかじめ下表のような標準的なHAZOPガイドワードリスト(ずれリスト)を準備しておき、一つ一つのずれを対象設備・システムに想定し、その原因および影響・結果の考察、考慮されている安全対策の確認と妥当性の評価、特定された最終事故事象のリスク評価、必要な調査・検討事項(HAZOPアクション項目)の提案という順序で検討、評価を行います。
HAZOPガイドワードリスト (プロセス装置)
パラメータ | 「ずれ」 | 「ずれの」原因例 |
流れ、フロー | 流れ停止/流量減少 | 上流系異常、回転機停止、CV故障閉、仕切弁誤操作閉、配管/フィルター閉塞 |
流量増加 | CV故障開、バイパス弁開、脱圧弁開、 | |
逆流 | 回転機停止、脱圧弁開、ミニフロー弁開、 | |
異経路流れ | 分岐/合流仕切弁誤操作、 | |
圧力 | 圧力上昇 | 下流弁閉止、ガス吹抜け、熱交チューブ破裂、 |
冷却水喪失、水撃、熱膨張、高圧側リーク | ||
圧力低下/負圧 | CV故障開、脱圧弁開、サクション側詰まり、 | |
温度 | 温度上昇 | 冷却水喪失、熱媒CV故障開、TIC故障、 |
温度低下/低温 | 熱媒喪失、熱媒CV故障閉、液化ガス吹抜け、 | |
組成/粘度 | 組成変化 | フィード組成変化、FRrC故障、 |
不純物混入 | 熱交チューブ破裂/リーク、異種添加物注入、空気混入、仕切弁リーク、 | |
粘度変化 | TIC故障、スチームトレース故障、 | |
反応 | 反応停止/減少 | 反応物質停止/減少、熱媒喪失(吸熱反応)、 |
反応増加/異常反応 | 反応物質増加、冷却水喪失(発熱反応)、 | |
逆反応/副反応 | ||
攪拌 | 攪拌停止/減少 | 電源喪失、回転数制御故障、 |
攪拌増加 | 回転数制御故障、 | |
液レベル | 液面上昇 | オーバーフロー対策 |
液面降下 | 吹き抜け対策 | |
界面コントロール | 他相の混入 |
HAZOPは、ガイドワードのほかにもプロセスラインごとのスタディ、原因特定と影響・結果特定の双方向型アプローチ、定型的な繰り返し型手順、多能型チームによるスタディなどの特徴を持っています。これらの特徴を持つHAZOPの長所は潜在危険性の特定における網羅性にありますが、スタディに多くの時間を要するという短所もあります。また、HAZOPは、機器の故障や誤操作によるプロセスシステム内部の異常/緊急状態の分析と事故予防対策の評価を主要な目的としていますので、一般に、停電、地震等の外部事象や、漏洩・流出、ガス拡散、火災・爆発といった事故事象に対する安全対策の評価までは取り扱いません。これらの分野をカバーするために、設計・運転全般に関する安全対策チェックリストを併用するなどの工夫がなされます。HAZOPスタディの実施例を以下に示します。
HAZOPスタディの実施例
装置/設備名称 : |
原油常圧蒸留装置/LPG蒸留セクション |
スタディノードNo. | N-1002 |
スタディノード概要 : | 脱プロパン塔V-1001塔頂(OH)ベーパー系 |
設計意図/主要運転条件 : | 脱プロパン塔OHベーパーの凝縮、塔頂圧力および脱プロパン塔OH受槽圧力のコントロール |
圧力:V-1001塔頂:15.0kg/cm2G、D-1001:14.6kg/cm2G 温度:E-1002A/Bシェル側入口/出口:46℃/44℃ |
ずれ | No. | 考えられる要因 | 起こりうる影響・結果 | 考慮されている対策 | リスク評価 | アクション | アクション内容 | 担当 | ||
L | S | R | No. | |||||||
流れ停止/ 流量減少 |
1.1 | PV-1001閉止 | 1.1.1 V-1001 脱プロパン塔凝縮停止、脱プロパン塔圧力上昇、PDV-1001開、D-1001OH受槽圧力上昇、過圧損傷の可能性 | TI-1010, PIC-1001/1002PAH, PDIC-1001H, PSV-1001/1002 PV-1002 |
2 | 3 | B | |||
1.1.2 PICV-1002(ハイカット弁)開き燃料ガス系にプロパンガス放出、製品プロパンロス(一時生産損失) | 2 | 2 | B | |||||||
1.1.3 D-1001OH受槽液面低下、V-1002プロパン脱水塔へのフィード停止、運転停止(待機運転) | LIC-1002LAL, FIC-1004 |
2 | 2 | B | A-1002-1 | FIC-1004にFAL設置検討 | プロセス/運転 | |||
1.1.4 最終的にD-1001液喪失、P-1001A/B還流ポンプ空引き損傷の可能性、 | LALL-1003 (P-1001A/Bトリップ), | 3 | 4 | B | A-1002-2 | LALL-1003によるP-1001A/Bトリップシステムの作動確認試験計画を作成(online/offline) | プロセス/制御/保守 | |||
1.2 | PDV-1001閉止 | 1.2.1 ホットバイパス喪失により全凝縮状態(E-1002A/B能力に余裕があれば過冷却)、 OH受槽圧力温度低下、塔頂圧力制御不能、運転停止(待機運転) |
FIC-1002/1005 TI-1010 PIC-1002PAL |
2 | 2 | B |