HAZOP Q&A
毒性ガスが漏洩した場合の安全対策として、ある工程を建屋囲いし、漏洩を検知したら密閉化⇒建屋吸引⇒除害処理というシステムが設定されている場合、これも既存安全対策の項目として挙げてもよいでしょうか?
(ただし、この場合感覚的には、建屋外はリスクは小さくなりますが、建屋内にパトロール者など作業者がいた場合、逆にリスクは高くなってしまいますが。)
毒性ガスの漏洩は、火災・爆発と同様に、プロセス機器の破裂・損傷以降の災害事象としての取り扱いが必要です。
すなわち毒性ガス中毒による死亡災害(S=5)の起こり易さを評価することになりますが、屋内設備に対する漏洩検知⇒密閉化⇒建屋吸引⇒除害処理のシステムは、毒性ガスの漏洩事故を局所化し屋外への拡散を防止する対策であり、基本的に建屋外にいる人の死亡確率を低減する安全対策として評価することになります。建屋内にいる作業者に対しては、漏洩検知・警報のみが屋外への緊急避難を促す対策となります。このシステムを既存安全対策として取り上げ、それぞれの対象者の死亡確率を推定・評価するためには、以下のスタディが必要になります。
[A] 建屋内にいる人の死亡確率の推定・評価
(1) 人が漏洩場所にいる確率(1年間当たり)
たとえば、パトロール等で1日3回、5分間づつ建屋内に人がいる場合の存在確率は、
365x3x5/60/8760=1.0x10-2
(2) 漏洩場所にいる人の死亡確率(たとえば、以下の考え方により評価する)
① 漏洩検知・警報から建屋外に避難するまでの所要時間
② ①の時間における建屋内の拡散濃度(物質および漏洩流量等によって異なる)
③ ②と漏洩検知・警報濃度との平均値
④ ①の時間と③の平均濃度から中毒による死亡確率を推定(Probit関数による)
(3) 中毒による死亡の確率
(プロセス機器の破裂・損傷の発生頻度)x(1)x ④
[B] 建屋外にいる人の死亡確率の推定・評価
(1) 毒性ガスの漏洩時に、建屋の外にいる人の死亡の確率
たとえば、パトロール等で1日3回、5分間づつ建屋周辺に人がいる場合は、
365x3x5/60/8760=1.0x10-2
(2) 建屋外にいる人の死亡の確率(たとえば、以下の考え方による)
① 漏洩検知⇒密閉化⇒建屋吸引⇒除害処理システムの失敗確率
② 漏洩検知・警報から構内警報、さらに現場エリアにいる人が
安全な場所に避難するまでの所要時間
③ ②の時間における現場エリアへの拡散到達濃度
(漏洩検知⇒密閉化⇒建屋吸引⇒除害処理システムが機能しない場合)
④ ③と漏洩検知・警報濃度との平均値
⑤ ②の時間と④の平均濃度から中毒による死亡確率を推定(Probit関数による)
(3) 中毒による死亡の確率
(プロセス機器の破裂・損傷の発生頻度)x(1)x ⑤
以上に述べましたように、毒性ガス中毒のリスク評価は、上記のようなかなり手間のかかる推定を必要としますので、HAZOPの段階で実施することはあまりお勧めできません。HAZOPの段階ではプロセス機器の破裂・損傷(S=4)の発生頻度によってリスク評価を終了し、漏洩検知⇒密閉化⇒建屋吸引⇒除害処理システムについては、FTAを用いて失敗確率を推定してシステムの信頼性を評価・改善する、といった対応が現実的であると考えられます。